育児・介護休業法の改正ポイントから考える!従業員を辞めさせない仕組みづくり【Udemy Business×Waris共催イベントレポート】
2024年1月22日に開催した、Udemy Business×Waris共催ウェビナー『育児・介護休業法の改正ポイントから考える!従業員を辞めさせない仕組みづくり』レポートをお届けします。
今回は、株式会社ベネッセシニアサポート(介護と仕事との両立支援やプレゼンティズム回避などWLB推進に資する法人向け事業運営)の井木みな恵様(法人事業部部長)にご登壇いただき、育児・介護起因離職を防ぐために従業員に向けたどんな働きかけや仕組みづくりが有効かを考えるウェビナーを開催しました。
ウェビナー内でのご質問を多数いただき、ご関心の高さが伺える内容となりました。
本レポートではイベントで話題に上がったポイントをご紹介するとともに、具体的な打ち手として有効な情報についてもあわせてお伝えします。
▼目次
1. 育児介護休業法の改正ポイントや今後の政府方針
2. 介護で離職する社員があとをたたない理由は?
3. 介護で社員がやめない仕組みづくりのポイントとは?
4. 介護離職を防ぐためにどこから取り組むべき?
1. 育児介護休業法の改正ポイントや今後の政府方針
まず井木さんより、直近実施された育児介護休業法改正のうち介護分野に関する解説がありました。
2023年6月の法改正のポイントは、厚生労働省の公開資料に詳しくまとまっておりますが、本イベントでは、法改正の前提となっている「介護離職」の実態、および周知義務に関する解説を実施いただきました。
まず、介護しながらお仕事をしている方は、高齢化や女性の社会進出により増加傾向にあり、就業者の5%となっています(令和4年就業構造基本調査)。
また、子育てと介護が重なるいわゆる「ダブルケアラー」は約29万人というデータも出ています(2024年1月22日付 毎日新聞)。
育児も介護も重大なライフイベントですが、特に介護は「急」に始まるという大きな特性があり、事前の準備が重要。
しかし、介護はネガティブなイメージが強く、あまり知られていなかったり準備に手が回らなかったりしがちです。両立に関する知識がなければ、介護が始まった際に対応ができず、離職や長期の休職などに繋がってしまう可能性もあります。
このため、社内制度や介護準備に対する基本的知識を周知しておくことが重要となります。
また井木さんからは、今後の政府方針についても情報提供がありました。
政府は家族を介護する必要がある従業員に対し、介護休業等の両立支援制度を周知するように、全ての企業に義務付ける方針。2024年の通常国会に育児・介護休業法の改正案提出を目指していくそうです。
また40歳になった全従業員に対し、介護休業などの支援制度を書面で知らせること、従業員から個別に家族の介護が必要だと相談や申し出があった場合にも、面談などを通じて利用できる制度を知らせることなどの義務化も可能性がある、とのことでした。
2. 介護で離職する社員があとをたたない理由は?
先の見通しが立てづらいことに加え、介護を担う側の肉体的・精神的負荷や更年期障害などとの重なり、地域や周囲に「助けて」と言えない、あるいは誰に何を頼ったらいいのか分からない(情報不足・周知不足)といった理由が考えられます。
さらに、テレワークが無く出社が必須のため介護に十分な時間が取れなかったり、休みを取ることで他の同僚にしわ寄せがいってしまい迷惑がかかる、といったように、社内の勤務環境や風土が両立の阻害要因になっていることも。
そして結果的に「離職」という発想につながってしまうのは、介護に関する価値観やイメージ(親の介護は他人に任せるべきではない、介護は女性が担うもの、など)が時代に即してアップデートされないままになっていることも、大きな背景になっていそうです。
3. 介護で社員がやめない仕組みづくりのポイントとは?
井木さんは「小さい単位」で介護をしていける社内環境づくりの重要性を訴えました。
「小さい単位」とは、単発のお休みやオフといったことです。
例えば介護の初動段階で、介護方針の立ち上げのため、数日の有給休暇を何度か取ったり、数時間の時短勤務や、特定曜日の勤務時間を調整するなどが代表的です。
また、例えば在宅介護との両立や、遠方にいる親族と直接分担するといった事が叶えられるよう、テレワーク(リモートワーク)を活用するといったことも「小さい単位」の介護実現に大変有効です。
重要なのは、
① 企業が制度を用意すること、だけでなく、
②「周知」がはかられること、また
③ 躊躇なくそうした制度を利用できるように促進すること
といったお話がありました。
特に③については、「人事に相談すること」にハードルを感じる従業員も少なくありません。人事担当者以外にも上司や同僚など、コミュニティがあれば相談できる可能性もあります。
こうした点においては、組織づくりの中核を担う管理職層の認識が重要になるでしょう。
4. 介護離職を防ぐためにどこから取り組むべき?
まず始めるべきことは「まずは実態調査を行うこと。今、介護に直面している従業員はもちろん、今後5年間で介護に直面する可能性がある従業員がどれくらいいるか、何に困っているのか事実として把握すること」(井木さん)。
突然調査するのが難しいようであれば、ライトな勉強会やセミナーなどのイベントを開くのも良いでしょう。
そのうえで、「小さい単位」でWLBが取れるDX推進や制度設計、相談窓口などの周知啓蒙を進めていくとともに、「おたがいさま」と思える社内コミュニティづくりや風土・雰囲気の醸成についても、取り組んでいくべきでしょう。
最後に、本イベントでは視聴者からのご質問(相談)を多数いただきましたので、抜粋してご紹介します。
「自社では介護休業の取得上限を『3年間』としているが、これでは不足を感じており、どのように上長に働きかけたらよいか?」(視聴者)
井木さんからは「介護平均期間は約5年。要支援要介護の要因第1位が認知症であり、介護期間も長くなっていくため、人事制度上の「3年間」という規定は、離職原因になりかねません。そうした情報をファクトとして、上長の方へ働きかけをしていってはどうか」というアドバイスを頂きました。
「育児や介護においては休業・休暇や、時短勤務などの取得で、キャリアダウンや、やりがいの低下を強く懸念する方が、とりわけ男性に多いように感じます。こうした懸念を緩和できた事例はありませんか?」(視聴者)
この質問に対し、井木さんからは、ちょうど直近あった事例として、介護に直面した管理職男性Aさんの話をしていただきました。
・Aさんは、上長に「介護をしなければならないので、現役職を降りたほうがよいのではないか」と相談しました。
・相談を受けた上長は「役職を降りてはいけない。現ポジションにいるからこそ、また、今置かれたこの状況があるからこそ、どんな役割を果たせるかを考えてほしい。必要な支援や目線合わせは、いつでも一緒に取り組むから」と回答しました。
・Aさんは現役職にとどまり、働き方を周囲とともに調整しつつ、引き続き管理職の責任にコミットしています。また、社員へのロールモデルとなるよう「自身についての発信」に取り組んでいるそうです。
このケースからは、鍵になるのは、メンバーマネジメントにあたる管理職/管理者の存在であることが伺えます。
育児や介護による離職を抑止できるのは、管理職層の意識やリテラシーによるところも大きいことを人事部門も認識し、重点的に支援していくべきでしょう。