【スタートアップ人事責任者必見!】 24年4月から変わる「労働条件通知書」3つの改正ポイントとその狙い解説

2024年4月に労働基準法が改正されます。なかでも「労働条件の明示のルール変更」は最も影響が広範囲にわたる変更のひとつ。たとえスタートアップでも中小企業でも「知らなかった」ではすまされません!
この記事では、具体的な改正の内容やその背景、また企業や労働者へどのような影響が考えられるかについて解説します。

※本記事は厚生労働省からの情報に基づく解説記事です。より正確な情報については、必ず併せてご確認をお願いします。
令和6年4月から労働条件明示のルールが改正されます
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_32105.html

本記事はこんな方におすすめです

・スタートアップやSMBの人事として、正社員・契約社員の採用にあたっている方
・人材業界において採用支援や仲介業務などに取り組んでいる方
・労働基準法関連の予防法務に取り組む方


▼目次
本記事はこんな方におすすめです
「雇用契約書」と「労働条件通知書」について
今回の法改正で対象となる従業員は?
今回の法改正で何が変わる?変更ポイント
 変更ポイント① 就業場所・業務の変更の範囲を明記
 変更ポイント② 有期契約の場合【更新上限の有無と内容】 の明記が必要
 変更ポイント③ 有期契約の場合【無期転換申込機会、無期転換後の労働条件】 の明記が必要
求人票の形式も変わります
法改正の背景
法改正をきっかけに、個人と会社とがどちらも成長していける社会を

「雇用契約書」と「労働条件通知書」について

まず前提として理解しておきたいのは「雇用契約書」と「労働条件通知書」の違いです。
いずれも労働条件(場所、業務内容、賃金など)を明示するため、入社時に使用者と労働者が取り交わす書面ですが、大きな違いがあります。

「雇用契約書」は契約書であり、使用者と労働者(従業員)双方の約束を証明する書面として、署名押印(又は記名捺印)が必要です。
一方、労働条件通知書は、使用者が作成して従業員へ交付する書面であり、従業員側の署名押印(又は記名捺印)は不要です。

雇用契約書を渡さなくても法律違反には問われませんが、採用した人に対して書面で労働条件を通知するのは使用者の義務(労働基準法15条1項、同法施行規則5条4項)とされています。
よって、双方の内容を合わせた「雇用契約書兼労働条件通知書」を労働者と取り交わしている企業も多く存在します。

今回の法改正で対象となる従業員は?

今回の法改正は、2024年4月1日以降に労働者へ渡す労働条件通知書(雇用契約書)が対象となります。つまり、2024年4月以降に新しく入社もしくは契約更新する従業員(有期・無期)において必要となります。
労働条件通知書のひな形が企業にあるようでしたら、見直しとともに、今回の追記事項を増設できるよう、ひな形の改定を必ず進めましょう。

なお、過去にさかのぼっての適用はありませんので、例えば3月1日~6月30日のように、4月1日をまたぐ雇用契約は対象外です。また、24年3月現在時点で既に雇用されている労働者すべてについて労働条件通知書を作成し直す必要もありません。

今回の法改正で何が変わる?変更ポイント

労働条件通知書については、大きく3つの変更ポイントがあります。


画像:厚生労働省資料「令和4年度労働政策審議会労働条件分科会報告を踏まえた労働契約法制の見直しについて

変更ポイント① 就業場所・業務の変更の範囲を明記
現在は、雇入れ直後の場所・業務のみを記載していますが、2024年4月作成分以降、将来の場所・業務も追記する必要があります。
特に正社員の場合、例えば以下のように、将来異動可能性のある就業場所、業務内容の範囲をすべて記載することになります。たとえ支店がない企業であっても、社員を出向先に異動させる可能性があれば、就業場所の変更範囲を安易に「なし」としないほうがよいでしょう。

 例)就業の場所 (雇入れ直後)本社及び労働者の自宅
         (変更の範囲)本社及び全ての営業所、労働者の自宅
   従事すべき業務の内容
         (雇入れ直後)営業の業務
         (変更の範囲)会社内での全ての業務

変更ポイント② 有期契約の場合【更新上限の有無と内容】 の明記が必要

有期雇用契約では【更新上限の有無と内容】の記載が必要になります。
もし既に就業規則などで契約更新の上限が定めてあれば、労働条件通知書にも記載が必要です。また、契約更新の上限の定めが無しであれば、契約更新の欄に「更新上限の有無:なし」と追記する必要もあります。

変更ポイント③ 有期契約の場合【無期転換申込機会、無期転換後の労働条件】 の明記が必要
有期雇用契約では無期転換ルールに基づく無期転換申込権発生時、無期転換申込機会、無期転換後の労働条件の提示が必要になります。
労働契約法において、有期労働契約が5年を超えて更新された際、無期転換の申し込み権が発生します(無期転換ルール)。企業側は、有期雇用労働者の申し込みがあれば無期労働契約(期間を定めない労働契約)に転換しなければなりません。

求人票の形式も変わります

今回の法改正に伴い、労働条件通知書と同様、雇用条件の明記が必要となる「求人情報」(自社Webサイトでの募集、求人広告、ハローワーク等すべて)についても、掲載時に求人票や募集要項において就業場所や業務内容の変更範囲明示が必要となります。

自社の採用サイト掲載内容だけでなく、取引中のエージェントにおける登録者向け求人票や、求人広告などにおいても掲載内容を必ず確認しましょう。
詳しくは厚生労働省「令和6年4月より、募集時等に明示すべき事項が追加されます」を参照してください。

なお、Warisにおいては、ご登録者向けにお示ししている求人票は専用Webシステムにて管理しており、雇用契約を想定した求人票については順次、法改正対応を進めてまいります。

法改正の背景

今回の法改正で、厚生労働省による3つの狙いが推測できます。

まず1つ目は、有期雇用労働者に「無期転換申込権」という権利や「無期転換ルール」がある事が知られていないため、今回の法改正を通じて使用者・労働者双方へその点を周知する狙いが考えられます。厚生労働省「無期転換ルールに関する参考資料」によれば、これまでに無期雇用転換権を行使した有期契約社員は3割前後にとどまっているというデータがあります。

2つ目は、雇用契約の更新がなされなかった、いわゆる「雇い止め」の事案を最小化したい狙いもありそうです。厚生労働省「令和4年度個別労働紛争解決制度の施行状況」によると、民事上の個別労働紛争の相談件数、約31万件のうち雇い止めに関する相談は約1万4000件にのぼります。

そしてWarisが最も注目したいのは3つ目の狙いです。
今回の法改正に関する厚生労働省のリーフレットでは、次のように新しいかたちの働き方が定義されています。
勤務地限定正社員:転勤エリアが限定されていたり、転居を伴う転勤がなかったり、あるいは転勤が一切ない正社員
職務限定正社員:担当する職務内容や仕事の範囲が他の業務と明確に区別され、限定されている正社員

つまり、今回の法改正で労働条件通知書に「勤務地」や「業務の変更の範囲」が加わったのは、少子高齢化が進行し労働者確保が困難になっていくなか、勤務地限定正社員、職務限定正社員といった多様な働き方をもっと広げていきたいのが目的と考えられます。

 特に「職務限定正社員」の定義を明確にしたことにより、いわゆる「ジョブ型雇用」の認知向上や現場浸透がしやすくなります。

「ジョブ型雇用」とは、職務内容(ジョブ)を明確に定義し、職務記述書(ジョブディスクリプション)等で具体的に特定した職務の遂行に適切なスキルや経験を持つ人を採用する手法です。 必要な知見や技術、経験のほか、勤務時間、勤務地などの勤務条件についても採用前に提示し、合意した上で雇用契約を結ぶものです。

 勤務地限定正社員や、ジョブ型雇用の浸透が進むことによって、個人が仕事とともに叶えたい生き方実現への大きな追い風になることでしょう。

法改正をきっかけに、個人と会社とがどちらも成長していける社会を

多様な働き方が叶う社会は、個人だけにメリットがあるわけではありません。

企業にとっての「ジョブ型雇用」の大きなメリットは、課題解決や成長・挑戦に向け、高度な専門性を有する優秀な即戦力を確保しやすくなることです。

一方で職務内容(ジョブ)の定義や、職務記述書(ジョブディスクリプション)の作成は、会社の状況に応じてアサイン職務を変える「メンバーシップ型雇用」に慣れた方にとっては難易度が高く、ミスマッチにも繋がりかねません。

ちなみに、Warisが取り組んでいるプロ人材(フリーランス)紹介では、この「ジョブ型雇用」に近い考え方やプロセスのもと、主に長期業務委託契約の仲介を行っています。

雇用リスクの低い業務委託契約にて、ジョブ型雇用のトライアル導入をしてみるのもよいでしょう。Warisでは、初めてこうした働き方を取り入れたい企業様には職務内容の切り出し段階から優秀な人材の選定に至るまで、専任コンサルが一貫して丁寧に伴走します。ぜひ一度お問い合わせください。

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