【人事プロが解説】その契約…偽装請負かも?フリーランス活用で知らないと危険な問題点と判断基準
Warisの杉山です。
人事部門のディレクターとして、人事業務全般を行いつつ、企業様向けの人事研修や組織コンサルティング、業務委託活用についての支援にも携わっています。
企業の成長を加速させるため、外部のプロフェッショナル人材を「業務委託契約」で活用することが一般的になりました。多様なスキルを持つフリーランスとの協業は、組織に新たな視点と活気をもたらします。
しかし、その一方で「良かれと思って」行った業務指示や環境提供が、意図せずして「偽装請負」と見なされるケースが増えています。偽装請負は、法的な罰則のリスクがあるだけでなく、企業の社会的信用を大きく損ないかねません。
本記事では、単なるリスク回避の知識としてではなく、フリーランスという対等なパートナーと健全な関係を築き、共に事業を成長させていくための「偽装請負」の正しい知識と、その本質的な問題点について、人事のプロの視点から解説します。
■ 目次
1. まずは契約形態の違いを正しく理解する
2. ここが分かれ目!偽装請負を判断する3つの重要基準
3. フリーランス人材を選定する際の判断基準
4. 契約時の判断基準とは?
5. 隠れた落とし穴!会計・税務上の判断基準とは?
6. 成果を発揮するための稼働時の判断基準
1. まずは契約形態の違いを正しく理解する
フリーランス人材との契約は「業務委託契約(請負または準委任)」で行われるケースが一般的です。
雇用契約や派遣契約と大きく違うポイントは、以下の3点です。まずは、この違いを正しく理解することが大前提になります。
(1)労務管理
業務委託契約:なし
雇用契約:必要
派遣契約:必要
(2)指揮命令
業務委託契約:なし(業務遂行に不可欠な範囲での情報提供や一部レクチャーなどは可能)
雇用契約:あり
派遣契約:あり
(3)就業時間や場所
業務委託契約:時間や場所は原則不問。但し、稼働時間や曜日、常駐場所について、双方で合意して定めることは可能
雇用契約:契約内容、就業規則などにより、会社側が時間や場所を定める
派遣契約:契約内容、派遣先などより、会社側が時間や場所を定める
これら以外にも「対価の支払い」「社会保険」「成果責任」、備品や経費の扱い」など、契約形態の違い故に理解しておくべき点はいくつかあります。
ですが、まずは先ほどの3点をしっかりと押さえることが重要です。
2. ここが分かれ目!偽装請負を判断する3つの重要基準
業務委託契約が偽装請負に該当するか否かは、契約書の名称だけでなく、業務の実態を見て総合的に判断されます。特に以下の3点は、実態調査においても重視されるため、必ず押さえておきましょう。
基準①:指揮命令関係の有無
業務の進め方や手順について、発注者から具体的な指示・命令がある場合は「雇用関係」と見なされやすくなります。フリーランスの専門性に敬意を払い、業務の遂行方法は本人に委ねることが原則です。
基準②:時間と場所の拘束
始業・終業時刻の指定や、特定の勤務場所を一方的に義務付けることは、指揮命令下にあると判断される一因です。業務の性質上必要な場合でも、双方の合意に基づき、フリーランス自身がスケジュールを決定できる裁量を確保することが重要です。
基準③:業務で使う備品の提供
PCやソフトウェアなどを会社側が貸与する場合、会社の管理下で業務を行っていると見なされる可能性があります。ただし、セキュリティ確保など合理的な理由がある場合は、その旨を契約書に明記することでリスクを回避できます。
3. フリーランス人材を選定する際の判断基準
人材を選定する際にも、フリーランス人材(業務委託契約)と正社員や契約社員(雇用契約)では契約形態が異なるため、各ステップにおいて細かな注意が必要です。
代表的な内容としては、利用するワーディングの違いがあげられます。
【 ステップ 】
業務委託契約:事前面談、打ち合わせ、双方合意、発注有無
雇用契約:面接、選考、試験、内定通知、合否
【 スタート 】
業務委託契約:契約開始日、稼働開始日、稼働量、稼働時間、追加稼働
雇用契約:入社日、労働時間、始業・終業時間、残業時間
【 対価 】
業務委託契約:報酬・委託料
雇用契約:給与
【 終了 】
業務委託契約:契約終了・契約満了、双方合意
雇用契約:退職、退職願、解雇
実態として、雇用契約と同質性が高いと見なされないよう、偽装請負のリスクを低減させるためにもこれらのポイントを意識しましょう。
また、最近は副業人材も増えているため、人材選定の段階で、現業での就業規則や諸規程に抵触しないか、申請状況等を確認するとよいでしょう。
4. 契約時の判断基準とは?
雇用契約と違い、業務委託契約では、後々のトラブルを回避するためにも、細かい条件を双方で合意の元、契約書を必ず締結し、必要に応じて仕様書なども準備することが重要です。
まず、「契約期間、委託業務の内容、成果物や納品物、対価、支払い時期」など、基本的な事項を業務委託契約書や発注書に定めます。
その際、契約更改、打ち切り、満了時の条件も事前に確認するとよいでしょう。
また、業務内容や遂行プロセスに齟齬がなきよう、仕様書や確認書という形式で、委託内容について細かくすり合わせを行うこともあります。
交通費や諸経費の発生見込みがある場合には、負担先や請求方法、そして消費税(外税/内税)、所得税源泉徴収税の扱いについても事前に確認するとよいでしょう。
契約内容の留意点としては一般的な契約と同じようなポイントになりますが、委託業務の性質や契約相手によって
・請負(納品、成果物に対する委託)、準委任(役務提供に対する委託)の区別
・知的財産権の帰属権
・競業禁止の有無
・機密情報、個人情報、秘密保持などの取り扱い
これらの内容を契約書に盛り込むことも、大事なポイントです。
5. 隠れた落とし穴!会計・税務上の判断基準とは?
業務委託契約における報酬の支払いは、給与計算とは異なる会計・税務処理が必要です。経理部門と事前に連携し、特に以下の2点を明確にしておきましょう。
① 源泉徴収の要否
委託する業務内容によっては、報酬から所得税を源泉徴収し、国に納付する義務が発注者側に生じます。例えば、原稿料、デザイン料、講演料などが対象です。対象となる報酬の範囲は国税庁のウェブサイトで定められています。源泉徴収が必要な業務か否かを事前に確認し、必要な場合は支払調書の発行準備も進めておきましょう。
② 消費税の扱い(インボイス制度)
フリーランスからの請求書には、消費税が上乗せされている場合があります。インボイス制度の導入により、発注側は受け取った請求書が適格請求書(インボイス)の要件を満たしているかを確認し、適切に処理する必要があります。フリーランスが免税事業者なのか課税事業者(適格請求書発行事業者)なのかを契約前に確認し、請求書のフォーマットについても合意しておくことが重要です。
6. 成果を発揮してもらうための稼働時の判断基準
正社員や派遣社員とは異なる立場で働く副業・フリーランス人材。高い成果を上げ、組織に馴染んで活躍してもらうためには、周りのメンバーの理解と配慮が重要になってくることでしょう。
まず、直接雇用とは異なる働き方をすることを、関係者全員に伝えておくと良いかもしれません。働く時間や曜日を、一緒に仕事をするメンバーが分かるようにしておくことも大切です。
連絡が取れる時間帯を事前に確認しておくと、スムーズに仕事が進むと考えられます。また、最初にメンバー紹介の機会を設けることで、コミュニケーションが取りやすくなるのではないでしょうか。
業務を進める上では、契約書で定めた内容に基づいて依頼を行うようにしましょう。内容に変更がある場合は、その都度確認が必要となります。また、緊急時の連絡先も明確にしておくと安心です。
このように、組織の中で多様な働き方を受け入れ、それぞれの立場を尊重しながら、より良い成果を生み出していける環境づくりが求められているのです。
偽装請負と見なされないための具体的な判断基準について解説しました。
しかし最も重要なのは、契約書の文言や形式を整えること以上に、フリーランスを「都合の良い労働力」ではなく「事業を共に創るプロフェッショナルなパートナー」として尊重するという組織全体の意識です。
指揮命令をしない、時間や場所を不当に束縛しないといったルールを守ることは、リスク回避のためだけではありません。それは、自律したプロフェッショナルへの敬意であり、彼らが最大限のパフォーマンスを発揮できる環境を整えるための土台です。
多様な働き方を選ぶプロフェッショナル人材と健全なパートナーシップを築くことは、組織に新しい知見をもたらし、イノベーションを加速させます。偽装請負の正しい理解を、貴社の成長戦略の一環としてぜひお役立てください。
実は、弊社もメンバーの1/3以上が、副業やフリーランスなどの業務委託人材で構成されており、人事部門を始めとして各チームで試行錯誤しながら、日々ノウハウを蓄積しています。
・これから副業やフリーランス人材を活用したい
・既に活用しているが偽装請負リスクについてもっと知りたい
・より多様な人材がひとつの組織の中で成果をあげるためのポイントが知りたい
などのご要望があれば、人事部門や事業部門向けの研修や、各種フォーマットのご提供等も可能です。
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