“誰かに頼らず生きる”は、希望か、プレッシャーか|PIAMY×Waris代表対談
2025年9月4日、「女性の多様な生き方を支援したい」という共通の想いを持つ、株式会社アルトレオスが運営するレズビアン・セクマイ向けマッチングアプリ「PIAMY」代表の星マリコ氏と、Waris共同代表の河京子が対談を行いました。
今回の対談は、様々な状況におかれる女性に寄り添ったキャリア支援を広げていく取り組みの一環として実現したものです。
テーマは「“誰かに頼らず生きる”は、希望か、プレッシャーか」。
セクシュアルマイノリティ女性を含め、多様な女性が「自分らしく働き、生きる」ために必要なことについて語り合いました。
※本記事は、PIAMY公式noteに掲載された記事を許可を得て転載しています。
「誰かに頼らず生きる」は希望か、プレッシャーか?レズビアンや多様な女性のキャリア形成
現代社会において、女性の「自立」は一見するとポジティブにも捉えられますが、時にプレッシャーになることも。経済的な自由、キャリアの確立、そして精神的な独立。
これらは多くの女性が望む「自分らしい生き方」であると同時に、「一人で全てを背負う」というプレッシャーになりかねません。
今回、私たちはこの問いに向き合うべく、レズビアン・セクマイ向けアプリPIAMY代表・星マリコと、女性のキャリア自立を支援するWaris共同代表・河京子さんをお迎えし、対談を実施しました。「誰かに頼らず生きる」というテーマを掘り下げ、多様な女性が自分らしく輝ける社会の実現に向けたヒントを探っていきます。
レズビアンやセクマイ女性など、多様な女性が自分らしく過ごせる社会を目指して
星:PIAMY代表の星です。前職ではLGBTQ+の就労支援を行うスタートアップに携わっていました。その中で強く感じたのは、やはり前に出てくるのがゲイ男性に偏っているということ。レズビアンやセクマイ女性が表立つ機会が少なく、LGBTQ+コミュニティ内にもジェンダーギャップが存在することに漠然とした課題感を抱いていました。
「女性たちももっと表に出て、自由に活動できる選択肢を提供したい」という想いからPIAMY立ち上げに至りました。PIAMYは「出会い」がキーワードとなりますが、単に出会いの場を提供するだけでなく、その先のキャリア形成や経済的な自立への意識付けを促すことも目指しています。
PIAMY代表の星マリコ
河: Warisの共同代表を務めています。2007年にリクルートに新卒で入社して以来、今日に至るまで人材紹介事業に長く携わってきました。リクルートに入社したきっかけは、実は「マイノリティの支援をしたい」という強い想いがあったからです。女性や外国人、LGBTQ+など、多様なマイノリティの方々が自分の思い描く人生を制約なく実現できる社会を創りたい。そう思っていたのですが、実際に働いてみると、当時の人事担当者からは、「女性や外国人はお断りです」と平気で言われる現実がありました。
労働人口が減少していく中で、女性や外国人の活躍が必須であるにも関わらず、このような状況が続いていることに大きな危機感を覚えまして。さらにリーマンショックも経験し、個人のキャリア自立の重要性を痛感しました。この経験から、女性が早期にキャリアの自立を果たす重要性を強く感じ、女性のキャリア課題解決と個人の自立を実現するためにWarisを設立しました。創業当初はワーキングマザーに特化していましたが、現在はあらゆる女性が感じるキャリア課題や不安に寄り添うべく、支援対象を全ての女性に広げて事業を展開しています。
株式会社Waris代表の河さん
「誰かに頼らず生きる」は希望かプレッシャーか
星:今回の対談テーマである「『誰かに頼らず生きる』は、希望かプレッシャーか」は、私が提案させていただいたものです。女性は長きにわたり、誰かに頼って生きる立場にありました。かつては結婚しないと社会的な地位を得られなかった時代もあり、家父長制といった価値観が根強かったと思います。
しかし、現代では女性が一人で生きていける時代になりました。私自身、男性と結婚し、出産・育児を経験する中で、人生はさまざまな変化があると感じています。働ける時間が短くなったり、生活に制限が生じたり。そんな時、パートナーと補い合い、2人で一つになることのメリットや可能性の広がりを強く感じるようになりました。
だからこそ、「一人で頼らずに生きる」ということは、ある意味で「保険がない」状態であり、自分一人で生きていかなければならないという現実的なプレッシャーを痛感する側面もあるのかなと。この感覚は、特にマイノリティの女性や、新しい選択をする女性にとって、自己責任につながるのかなと考えています。だからこそ、このテーマについて深く議論したいと思い、提案させていただきました。
河:星さんの話を聞いて、ヴァージニア・ウルフ著『自分ひとりの部屋』(平凡社)を思い出しました。約100年前の作品ですが、当時は女性が自立して生きることの難しさ、そしてお金と自分だけの部屋があれば、自分のやりたい仕事が思う存分できるという希望を描いています。
河:それから100年が経ち、先人たちの努力によって女性参政権が実現し、さまざまな権利が勝ち取られてきました。しかし、その歴史のうえに立つ私たち現代の女性は、それらの権利を最大限に活用し、希望を持って生きるべきだという、ある種のプレッシャーを感じることがあります。自分たちが先人たちにとっての「希望」であるという自覚が、時に重みとなるというか。
星:この数年で、「専業主婦願望」が再燃しているという話も耳にします。北欧のインフルエンサーが「頑張らない私」というキャッチフレーズで専業主婦として注目されたというニュースも目にしました。
河:北欧は女性の活躍推進において世界をリードしている国々ですが、それでもこのような動きがあるというのは、現代の女性が「多様な選択肢があるがゆえのプレッシャー」に直面していることの表れだと感じます。
星:しかし、ヘテロセクシュアル(異性愛者)の男女カップルであればまだ選択肢があるとしても、セクマイ女性にとっては、状況は異なります。女性同士で生きていく場合、男女間の賃金格差が背景にあるため、女性がパートナーを経済的に養うことは容易ではありません。定年まで働き続けることが、ヘテロセクシュアルの女性よりもはるかに現実的な課題となるのです。
世間が「専業主婦でもいいじゃないか」というムードになる時、セクシュアルマイノリティの女性は置き去りにされてしまう。だからこそ、PIAMYは女性が頼らずに生きられる社会の実現に向けて積極的にコミュニケーションしていく必要があると感じています。
女性の自立とは?
星:私は「自立=依存先(居場所や頼れる場所)を増やすこと」だと考えているのですが、まさに子どもができてからは、土日にはおばやいとこが手伝いに来てくれるなど、たくさんのサポートをしてもらっています。こうした関係を築くことは、自分らしく生きるうえで重要であり、子どもが生まれる前から築いてきた関係性が今実を結んでいると強く感じています。誰かと共に生きる、支え合うことが、結果的に自立につながるんだなと。
しかし、セクマイ女性にとって、依存先を増やすことは容易ではありません。当事者の多くは、家族の中でマイノリティになりがちです。例えば、在日外国人の場合、家庭の中では共通の文化や経験を持つ仲間がいるのに対し、セクシュアルマイノリティはシステジェンダー・ヘテロセクシャルの両親を持つ場合、家族の中でも孤立しやすい構造にあります。
新宿二丁目にあるレズビアンバーが多く立ち並ぶ「百合の小道」
河:星さんの話を聞いて、マジョリティ女性の抱える「依存」と「孤立」の問題に共通点を感じました。Warisに登録している女性の中には、復職を希望しているにも関わらず、「夫ブロック」や「義母ブロック」によって就労の機会が失われるケースが今も存在します。特に地方では、昔ながらの男女分業意識が根強く、「子育てに専念しろ」といった言葉で働きに出ることを止められることがあるのです。
私も子育てのために実母や義母に頼っていますが、彼女たちは働きたいにも関わらず、夫や義母の反対によって働けない状況にあります。専業主婦であれば「自分で何とかできるでしょ」と見なされ、むしろがんじがらめになっているというか。東京では想像しがたいかもしれませんが、地方では「非常識」が「常識」としてまかり通っていることがあります。
星:社会が敷いた「当たり前のレール」に抗うことは、大きなエネルギーを必要とします。周りから「おかしい」「無謀だ」と言われ続ければ、次第に自分も「無理なことなのかもしれない」と思い込んでしまう。これは、LGBTQ+コミュニティでよく使われる「マイクロアグレッション(無意識の偏見や思い込みによる差別的言動)」に通じるものがあると感じます。一つひとつは些細な言葉や態度であっても、それが積み重なることで心理的な負担となり、居場所を失う感覚につながる。地方の女性が直面する状況も、まさにこのマイクロアグレッションによる孤立であり、精神的な負荷だと感じました。
女性が輝いたキャリアの道筋を辿るために
星:最近ユーザー向けに実施したユーザーアンケートでは、48%の方がキャリアに関して課題感や不安を感じると回答しました。その中でも「一人で、またはパートナーを養うために、経済的に自立しなければならない」という意見が多かったです。さらに、「セクシュアルマイノリティの女性が出会うためには、キャリア的に自立していることが前提」という意見もありました。つまり、経済的に自立していないと恋愛すらできないと感じている方がいらっしゃったのです。ヘテロセクシュアル女性の場合、極端な話を除けば、「年収がいくらでないと恋愛できない」といった前提はあまりないように思います。
しかし、LGBTQ+コミュニティでは、将来の生き方を真剣に考えているからこそ、パートナーとの人生を考えるうえで、自身が経済的に自立していること、そしてパートナーにも経済力があることを求める傾向が強くなるのかもしれません。これはある意味、世の中の男性が感じるプレッシャーに近いものがあるのかなと。
河:Warisを通して女性を支援するうちに、それぞれ個別の事情を抱える人の存在を知りました。弊社としてもできるだけ公平に活躍できる環境を整えることが大事だと考え、まずは自社内から制度を整えたという事例があります。結果的に人事制度などがセクシュアルマイノリティの方々に適応された形に改善され、現在ではダイバーシティ&インクルージョンのアワードも受賞するに至っています。マイノリティの視点がないと、私自身がアライ(LGBTQ+を理解し支援する人)だと思っていても、気づけないことが多くあると痛感しました。私もアライではありますが、当事者の方々の現状に触れると、自分がいかにマジョリティであるかを思い知らされます。
女性のロールモデルの圧倒的少なさ
河:Warisでは、登録されている女性の多くが、報酬交渉の際に自ら控えめな金額を提示する傾向にあります。これは創業当初からの課題で、このままではプロフェッショナルな女性たちの市場価格が下がってしまうと考え、Warisでは市場の適正報酬を踏まえた報酬交渉ができるようサポートもしてきました。
男性の場合、実際よりもはるかに高い金額を提示する傾向があり、それがトラブルにつながることもあります。一方で、女性の場合は、低い金額を提示するにも関わらず、期待を上回るアウトプットを出すことで、結果的に高い評価につながることも多いのです。
星:キャシー松井の『ゴールドマン・サックス流 女性社員の育て方、教えます』にも似たような記述があります。昇進の話になると、女性は「昇進に必要なスキルがまだ3つ足りていません」と不足している部分を挙げるのに対し、男性は「昇進に足るスキルが3つもあります」と自信満々に語るという違いです。
河:これはまさに、Warisで目の当たりにする女性の「自己評価の低さ」と重なります。こうした傾向は「インポスター症候群」ともいわれ、自分に何かできるはずがないと、無意識のうちに自分を過小評価してしまいます。
女性の場合、リーダーシップを発揮する機会やスキル形成の機会が奪われがちという構造的な問題もあります。リーダーの数は圧倒的に男性の方が多いため、女性にとってのロールモデルが少ない現状です。
自分らしく働く・生きるを実現するために
星:自分らしい生き方を実現するために、PIAMYはSNS形式のアプリを通じて、まず「自分の言葉で自分は何者か」を発信することから始めてほしいと考えています。リーダーシップを発揮する機会は、男女差があると感じています。私が大学時代、授業で発言するのは男子学生が多く、正直、そこに頼っていた自分がいました。それは今考えると、女性が声を失っていくことに繋がりかねないことです。
「自分はこうです」と、きちんと自分の言葉で発言することは、自分の輪郭を作り、自信を形成するために重要です。アプリもただ受け身で写真だけを載せるのではなく、「私はこういう人で、こんな未来を作りたいと思っていて、こんな人に出会いたい」ということを積極的に発信してもらうことで、それが日常生活における自信につながると信じています。
河:Warisでは「自分らしい働き方、生き方」を実現するために、時間や場所にとらわれない働き方を軸に置いています。最も困っている人に焦点を当ててデザインし直すことで、結果的に全員が働きやすく、生きやすくなる社会が実現する。ユニバーサルデザインの考え方に基づいています。
具体的な取り組みとしては、まず「自己評価の低さ」の引き上げです。多くの方々が自信がないため、報酬の部分から「市場価格はもっと高いですよ」とお伝えし、適正な報酬を得られるよう支援しています。次に「WILLの可視化」です。キャリアカウンセリングを通じて、本人が漠然と抱いている「こうなりたい」という思いを言語化するお手伝いをしています。そして、そのWILLを実現するためのジョブを提案し、時には本人が思い込んでいる選択肢から少しずらして、より本質的なキャリア実現に貢献しています。
PIAMY(ピアミー)|レズビアン・セクマイが繋がれるSNSアプリ
https://piamy.net/
≪日本発PIAMYは、セクマイが繋がれる女の子だけの国内最大級SNSアプリ。友達、恋人、同じ価値観の仲間と出会える安全な場所≫
多様な女性が活躍する未来はくるのか
河:私は女性の未来に希望を持ちたいですが、現在3歳になる娘がいるからか、正直なところ日本の将来には大きな不安を感じています。近年の社会情勢、特に女性蔑視的な事件や、セクシュアルマイノリティに対する理解の乏しさなどを見るたびに、疲労を感じることも少なくありません。それでも、いま、そして未来の女性のために「社会を変えていこう」という強い意思は持ち続けていますし、事業を通じて変えていきたいと思っています。
星:私は希望があると思っています。小学生の頃から男子生徒しかいないクラスに一人で入るなど、幼少期から「異分子」としての経験を積んできました。だからか、多様な人々と共に課題を発見し、解決していくことに喜びを感じています。プレッシャーを感じずに自分らしくやりたいことをやり、それがやりがいにつながり、自分が望む未来に向かって頑張れる環境にいること。このような環境をより多くの人が経験できるようになることは、間違いなく良いことだと信じています。
一人で全てを抱え込むような強いハイキャリアを目指すのではなく、みんなと支え合いながら進む道。最初に話した「自立とは依存先を増やすこと」という考え方にもつながります。社会的な立場や置かれた状況を気にすることなく、自分のやりたいことをやる。そうしたいのにできない人がいるのなら、それができるよう支援していきたい。その先に、必ず希望ある未来が待っていると私は確信しています。
株式会社Waris|Live Your Life すべての人に、自分らしい人生を。
https://waris.co.jp
「誰かに頼らず生きる」というテーマは、希望と葛藤が入り混じる現状があります。ですが、PIAMYとWarisそれぞれの持つ異なるアプローチから「多様な女性のエンパワーメント」という共通の目標に向かって活動を続ける意義は大きいのではないでしょうか。女性が生きやすい社会は、社会全体の活性化につながるという共通認識のもと、女性が自分らしく働く社会を目指したいです。
本記事は、株式会社アルトレオスが運営する「PIAMY」公式noteにて公開された記事を転載したものです。
オリジナル記事はこちら(PIAMY公式note)
あわせて、10月29日(水)20時よりウェビナーを開催します。
テーマは「自分らしく働き続けるためのキャリア設計とライフプラン ―セクマイ女性の未来に向けて―」。
詳細は後日、WarisのメールやSNSにてご案内いたしますので、ぜひご覧ください。