3社のスタートアップ経営者がリアルに語る。はじめてのバックオフィス体制づくりの3つの視点【イベントレポート】

2023年3月7日に開催したWaris主催ウェビナー「スタートアップ企業3社のはじめてのバックオフィス構築」の開催レポートをお届けします。

今回のウェビナーでは、注目の大学発スタートアップ経営者の3名にご登壇いただき、
1人バックオフィスからの脱却の過程とこれからの形についてお話をいただきました。

バックオフィス構築と一言でいっても、企業カラーや事業内容によって考え方や構築体制が異なることが、非常に興味深いお話となりました。

ご好評いただいた本ウェビナー内容の一部を抜粋し、下記の形にまとめてお伝えします。
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1.バックオフィス体制づくりの3つの視点
①バックオフィスの『攻め』と『守り』
②事業や人材に合わせたロールの持たせ方
③バックオフィス体制構築により得られた成果
2.今後の組織成長に向けたコーポレート機能のビジョンとは
3.三者三様のバックオフィス体制 ~現在のリアル~
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以下、バックオフィス=BOと記載

1.バックオフィス体制づくりの3つの視点

ウェビナ―を通して、3社3様のバックオフィスへの考え方、構築の仕方(採用人材像)、構築による成果をお伺いしました。

①バックオフィスの『攻め』と『守り』
企業の中で事業開発の『攻め』に対してバックオフィスを『守り』と言葉にすることが一般的ですが、3社のお話からは、バックオフィス業務の中での『攻め』と『守り』のバランスを考えるお話がでました。
GIG-Aの阪本様は、バックオフィスの攻めの部分が重要だと言います。

「1つめの理由は、エストニアの文化との違いです。エストニアでは企業内でBO業務を担うことがほぼないため、BO人材を社内で抱えることの必要性をまず理解してもらう必要があります。
2つめの理由は、フィンテックの特性上、いかにリーガルハックするかが勝負です。そのためには、ライセンスやISOの取得がビジネスに直結します。
3つめの理由は、日本で働く外国人を採用しているため、就労ビザの取得などのイレギュラー業務に取り組む必要性があります。

このような環境の中で、BO業務のうち50%は日常業務、残り50%は新しいことにチャレンジしていこうという形で進めています。」

具体的なチャレンジ業務についてもお伺いしました。

「外国語が母語の方がいることから、社内の文書(就業規則など)を簡潔にする改善プロジェクトを動かしています。就業規則を英語やベトナム語に変えたとしても、元の文書が難しければ読解しにくいままです。また、どんどん肥大化する資料やファイルを整理することも必要です。KPIに社内の文書量を置くことで、成果を見えるようにしています。

BOメンバーには、空いた時間はこのような改善業務を進めてもらっています。フルリモート環境で生産性を上げるためにも必要なことだと感じています。」(阪本様)

バックオフィス構築というと、まずコーポレート機能の日常業務に取り掛かるかと思いますが、会社全体の機能強化に向けた積極的な業務改善に取り組むことも、同時にとても大事な側面ですね。

②事業や人材に合わせたロールの持たせ方
3社はともに、Warisワークアゲイン人材とのマッチングイベントにご参加いただいた企業様です。
バックオフィス人材を採用するにあたって、最適な人材は企業ごとに異なります。採用の背景と、どんな方を採用したのか、お伺いしました。

「私が攻めのBO業務に注力する時間を創出するために、日々のオペレーションを分担してくれる人を採用したいと思いました。

いくつかの採用エージェントに相談しましたが、英語力がマストである弊社の場合、人材の単価が高くなるといわれました。それならば事業開発側の人材採用を優先しようかと悩んでいるときに、Warisイベントに参加しました。

イベントで採用に至った方は2名です。
1名は、日本法人の立上げを1人で経験されたことがある方に出会えました。口説き落とし、正社員にて入社いただきました。
もう1名は、英語が堪能で、ドキュメント管理が得意な方でした。子どもが小さいため今はフレキシブルな働き方をしたいという彼女の希望が、弊社の働き方とマッチしました。
また、弊社にとっても正社員2名をバックオフィスで採用することは、そのタイミングでは少し重たいことだったことから、双方にとって業務委託/半分の稼働量の形がフィットしました。」(阪本様)

「私は、クライアント数や業務委託者数が増え、発注・請求書業務で手が足りないと思い始めたタイミングでイベントに参加しました。

結果、社員を1名採用しました。その方には、経理・人事・法務・広報などをマルチに対応してもらっています。
例えば会計の場合、記帳業務は外部に任せ、科目振り分けは事業を理解している社員が対応するといった業務分担をしています。」(佐伯様)

「私が担っていた人事、経理、広報、マーケティング等の業務を専門性を持った方々にお任せしたいと思い、イベントに参加しました。結果、正社員で2名の採用に至りました。

1名は人事・広報を、もう1名は経理+補助金・助成金対応を担当してもらっています。
経理担当の方は、ご自身の興味関心を広げて営業もやりたいと申し出てくれて、事業推進にも関わってくれています。」(常信様)

③バックオフィス体制構築により得られた成果
1人バックオフィスから脱却したことにより得られた成果については、全員が、
「自身が経営や攻めの部分に注力する時間が確保できたこと」
と答えました。
下記のようなお話からも、バックオフィス体制の構築が、組織の機能性を上げ、利益にも貢献していることが伺えます。

「投資家からは、『会社として体を成してきた』と言われました。人員を強化することで、経営者としてやるべき仕事に注力できるようになったことを投資家も評価してくれています。」(阪本様)

「営業メンバーが見積書作成なども担っていましたが、BOメンバーが巻き取りました。そのことで、営業メンバーがコア業務に集中できることや、管理がきちんとできるようになったことはよい効果として出ています。」(佐伯様)

一方、人材を採用するとなると、人材ミスマッチやコストの懸念がハードルになる場合もあります。この点について、常信様が自社の事例を共有してくれました。

「弊社ではまず業務委託でスタートし、双方に理解を深めたうえで採用を決めるフローをとっています。具体的に入社条件や期待ロールが見えることで、入社後に活躍いただける環境を提供できますし、リスクヘッジにもなると感じています。

また、弊社ではライター業務を発生ベースでプロ人材にお任せしています。
新聞社・出版社で本業を持つ方で、ライティング能力はもちろんのこと、メディアリレーションにも貢献していただいています。
エッジの効いたスキルをお持ちで、一定の時間でパフォーマンスを出してくださる方とは、業務委託の形でよいパートナーシップを持っていたいと思っています。」(常信様)

契約形態の違いや志向性(専門性/マルチ業務)などをうまく活用して、チームづくりを行っている様子が伺えますね。

2.今後の組織成長に向けたコーポレート機能のビジョンとは

次に、コーポレート機能のあり方として大事にしていることや今後のビジョンについてお伺いしました。

「コーポレートサイドのメンバーもプロダクトのミーティングには最低週に1度は参加をしています。意図としては、B2Cのビジネスをしているため、コーポレートサイドであってもプロダクトへの愛着を持ち、チームとしてフラットになっていくことを目指しています。
中長期的には、コーポレートサイドはいい意味で片手間化していきたいと考えています。デイリーで行うような業務は全体の20%程度(エストニアと同水準)に抑え、残りは攻めの業務にしていきたいです。例えば、法律面でこういう形で取り組めば新しいビジネスにつながるという発見や、新規のライセンス獲得などです。このような攻めの領域を広げていくことが、会社全体を強固にしていくと思って取り組んでいます。」(阪本様)

「初期から考えていることは、スタートアップにリスクをもって飛び込んでくれているメンバーに対して、安心して働ける制度や環境はしっかり整えていきたいと思っています。
加えて、会社ビジョン(思想)を形に落とし込む方法の1つが、ルールや制度をつくることだと思うので、会社の組織体制を早いうちから作っていき、文化として醸成していきたいと思っています。」(佐伯様)

「現在IPOを目指して会社全体で取り組んでいます。その中で目指すべきは攻めのバックオフィスだと思っています。今理想的な状況ができつつあると感じていますが、事業推進に貢献できるバックオフィスとして、ウェットな面・体制面ともに意識して取り組んでいるところです。
当面はまだN期前のため、管理をきちんと整えなければいけない段階ではありませんが、今のうちから、書類管理や規定策定、総会の開催など、細かに締めるところは締めていくことで、デューデリジェンスがスピード感もって進むといった効果があると思っています。中期的な視点として、そのような攻守のバランスを持ちながら進めています。」(常信様)

3.三者三様のバックオフィス体制 ~現在のリアル~

最後に、各企業の現在のバックオフィス体制についてまとめました。
企業カラーや事業内容、経営者のバックグラウンドによって、バックオフィス体制の構築にも様々なバリエーションがあることがわかります。

株式会社GIG-A
【事業内容】
モバイル金融サービスを提供するフィンテック。
多言語金融モバイルサービス「GIG-A」の開発

【創業時の状況】
2021年、共同創業者であるエストニア人2名と阪本様3名にて創業。
創業期は阪本様が1人で日本法人の立上げを行っていた。
現在メンバーは、グローバル全体で15名、日本法人7名

【現在のバックオフィスメンバー】
阪本様/フルタイム社員1名/業務委託(0.5人員)1名

【バックオフィス体制】
フルタイム社員が全体をリードしながら、業務委託の方と相互補完しながら業務を行っている。何かあったときにお互いバックアップできる体制としても機能している。
阪本様の役割は、承認作業や印鑑管理。新規ライセンス獲得など。

【ワークスタイル】フルリモート

【バックオフィスにおける文化・考え方】
・エストニアは電子国家のため、BO業務は基本的に政府が行う。勝手に請求書が届くので、ボタンを押して支払えば終了。
よって、まずエストニア人に日本のBOの必要性を理解してもらうことが必要。
・フィンテックなので、技術ドリブンよりはいかにリーガルハックするかが勝負。ライセンスやISO取得がビジネスに直結するため、BO自体が攻めの要素が強い。
・阪本様は銀行出身であり、BO業務は元々得意。

【バックオフィスのオススメツール】
・最初は前職で活用していたあらゆるツールを使っていたが、現在はマネーフォワードに集約。
・プロダクトチームが使用しているJira、ConfluenceをBOでも使用。Jiraでチケット管理し、業務の見える化をしている。

株式会社EVERSTEEL
【事業内容】鉄スクラップ解析システムの研究開発

【創業時の状況】
2021年創業。CEO田島様と佐伯様ともにプロダクトの開発の傍ら、BOは手探りで行ってきた。
現在メンバーは5名+業務委託10名

【現在のバックオフィスメンバー】
佐伯様/フルタイム社員1名

【バックオフィス体制】
佐伯様:統括および承認作業
社員メンバー:経理・人事・法務・広報などマルチ対応

【ワークスタイル】
出社とリモートのハイブリッド。現状半々くらい

【バックオフィスにおける文化・考え方】
・経営層はプロダクト開発がメイン。その中で佐伯様がコーポレート体制を整えてきた。
・税理士、会計士、弁護士など外部へのアウトソースも活用。

【バックオフィスのオススメツール】
UPSIDER(クレジットカードのサービス):顧客訪問での交通費の発生が多いため、
非常に効率的になった。

DataLabs株式会社
【事業内容】
土木・建築業界の課題解決のために、三次元計測サービスなど様々なプロダクトの開発を行うディープテック

【創業時の状況】
2020年創業。
現在メンバーは役員含め社員18名、パート2名、業務委託6名

【現在のバックオフィスメンバー】
常信様/フルタイム社員2名/パート1名/業務委託2名

【バックオフィス体制】
常信様:全体統括、ファイナンス、経営管理
社員1名:経理+補助金・助成金対応+営業
社員1名:人事(労務、採用)、広報
パート1名:マーケティング、採用コミュニケーション
業務委託(発生ベース):ライター

【ワークスタイル】
制度上フルリモート可。BOメンバーは、交代で週1程度出社

【バックオフィスにおける文化・考え方】
・常信様はこれまでの経験の中でも1人BOなどを経験されてきた。当社でも1人BOから管理部門体制を整えてきた。
・人材の配置やロールは、リソースを踏まえて意思決定はしているが、ほとんど社員から出てきた意向を活かして行っている。

【バックオフィスのオススメツール】
Notion:何を決めて誰がやるのかといった情報をすべて見えるようにしたことで、コミュニケーションミスが減った。

まとめ
今回のウェビナーでは、1人バックオフィスを脱却し、体制構築をしてきた3名の経営者の方から、リアルな体制構築の過程やその背景にある考え方などをお伺いしました。
Warisでは、今後もスタートアップ企業の成長を支援するための様々なウェビナーを開催していく予定です。お気軽にご参加ください。